ホワイト・アウト


積雪被害に遭ったねずみ男さん(300歳)【2日ロイター/共同】



取材で山陰に行きました。萩・石見空港に飛び、レンタカーで長門・仙崎→出雲→松江→米子→鳥取の順に回るドライブ旅です。総距離にして約400キロ、長いし取材件数も多いし、行くの2回に分けたほうがよくね? という素朴な疑問は編集部から完全シカトされ、そのまま出発。「がんばってきてくださいネ」と出版社の編集者に見送られました。が、彼女には悪いのですが、正直、カニを食うことしかアタマになかったことをここに告白しておきます。あとは米子の水木しげる記念館に行けるのが嬉しいくらい。ええ、鬼太郎、好きですとも。アニメ版の学級委員みたいな正義感あふれる鬼太郎にはちっとも心ひかれませんが、最近になって貸本時代の『墓場の鬼太郎』漫画版をコンプリート。ファンならわかると思いますが、漫画版には独特の妙な「間」とリズムがあって、今読み返してもうなってしまいます。落語でいえば古今亭志ん生にも通じるプロの業を間近に見られる、これはまたとないチャンスといえるでしょう。



水木先生が壁に即興で描いた妖怪たち。か、かわいい


さて、山陰は去年行っていてある程度は予想できたんですが、雪と寒さだけは予想ができませんでした。同行したカメラマンOさんは雪国用のスノーブーツで装備は万全。しかし悲しいかな、萩・石見あたりでは雪などチラとも舞っていず「この重装備が恥ずかしい」としきりに嘆いておられました。ぼくも一応トレッキングブーツは履いてましたが、スノーブーツはパンツの裾をinする必要があるため、見た目がカウボーイというかギャル男というか、なんかハデなんですね。「もう一足もってくればよかった」とボヤくOさんですが、じつはかの岡倉天心の玄孫さんというすごい血筋のお方。その血統は伊達ではなく、スノーブーツは松江から鳥取にかけてまったくムダではなかったことが証明されるのです。


「アンタら、すごい時に来たねえ、これ一年に一回あるかないかのひどい大雪だよ」とは、鳥取の取材先の方のセリフです。この言葉は大げさではなく、米子あたりの道は、折からの雪と日本海から吹き込む冷たい風で完全なアイスバーンと化しており、びびったドライバーが時速20キロほどのノロノロ運転で大渋滞を引き起こし、ちいとも進みません。翌日の新聞にはスリップ事故が数件発生していたことも判明。恐ろしい。思えば山陰に着いて翌日にはカーラジオのニュースで、とんでもない寒波が押し寄せてきてますので高波、強風、大雪にご注意くださいと警告を発していました。移動の多い我々にとってこの上もなく縁起の悪いニュースだったし、騒いでもどうしようもないのでOさんとはお互い聞こえないふりをしてましたが、まさかこれほどとは! クルマを降りると、ぼくのトレッキングブーツは雪でツルツル滑って非常にストレスフル。一方のOさんはさすがスキーブーツ、がっちりと地面を掴んでいるようで、スタスタ歩いています。ちくしょう。



つららとかアリですか


そんなわけで雪にはずいぶん悩まされましたが、食べ物にかんしては最高の旅でした。もちろん松葉ガニのかにしゃぶやら鳥取和牛やら新鮮この上ない魚介類が目白押し。こうなると欲しくなるのは何をさておいても酒です。Oさんがとんでもない呑んべえであることに加え、寒いこともあって酒がとまらず毎晩のように焼酎や日本酒のボトルをあけ、ホテルのベッドに倒れ込み→気絶という即死コンボを炸裂させておりました。しかし松江で食べた穴子にはびっくりしました。関東では身の締まった小ぶりの穴子が上物とされますが、松江の居酒屋のカウンターで目にしたのはかなり太くて巨大あなご。Oさんとふたり、あれだけ大きいと、味もきっと大味なんじゃないか、と失礼な憶測を飛ばしあっていたのですが「そういわずに天ぷらで食べてみてよ」という主人のすすめに従い、口にしてみておどろきました。外はカリッ、中はとろけるほどジューシー。ふぐの白子のような、淡泊ながらコクのある、なんともいえない至福の味でございました。


【おまけ】

出雲大社の巫女さんたち。キレイ