旅と本


ちょいと実家の熊本に帰省しました。熊本城の改修も終わり、天守閣がきれいに見えてよかった。若松屋の鰻もあいかわらずおいしかった。


ところで、旅に出るとき必ず持っていくものってあるんじゃないでしょうか。飛行機の中で観察してたら、iPodとかDSはもうデフォルトになってそうですね。ある編集の後輩の女の子は、いつか飲み屋で「旅には熊のぬいぐるみを持参して、それを主人公に旅写真を撮ってるんです♪」と楽しそうに話してました。かと思えば、いつかチベットのド田舎で出会った女傑は、ヒッチハイクでおんぼろトラックに乗せてもらったはいいものの、荷台にくくりつけていたバックパックが途中で谷底に転落し「もう換えのパンツもありませんよ! アハハ」と笑ってました。モノには一切こだわらないので荷物は現地で買い直せばOKとのことでした。


まあ、世の中にはいろんな人がいて、旅のスタイルも旅グッズへのこだわりも十人十色なんですね。さて、そこでハタと自分のことを考えてみたら、月並みですが旅の友は本と音楽でした。荷造りの最後には必ず本選びをしています。18歳くらいのときは、Smithsとか遠藤賢司とかOasisとかRadioheadとかFishmansとか入れたテープと、ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』とカポーティの短編集、そしてなぜかブリア・サヴァラン『美味礼賛』を持ってロンドンへ出かけました。サヴァランは当時は難解すぎて挫折し、パリ発ヴェネチア行の特急のコンパートメントで一緒だったモロッコ人の大学生に記念にあげました。


というわけで、たまには書評でもしてみようという企画です。



『モーニング』での連載当時から毎週楽しみに読んでた『悶々ホルモン』が本になって新潮社から出ました。20代の女性である著者が、年がら年中酒浸りのオヤジでいっぱいのホルモンの全国の名店を巡る飲み歩き記録ですが、特にテンションが高いわけでもなく、全編とおして淡々と綴られる感じと、食べ歩きに同行する人たちとの人間模様がなんともおもしろいです。今までも『居酒屋礼賛』をはじめとする名作は多々ありましたが、21世紀のB級酒場ガイドかもしれません。旅に持って行くと、昼間から酒飲んじゃいそうで怖い。





ドイツ児童文学の巨匠プロイスラーの名作『クラバート』。ずーっと前に買ってなんとなく後回しにしていたのを実家に帰省の際に持参し空の上で読了。子供の頃に大好きだった『大どろぼうホッツェンプロッツ』シリーズとはちょっと違う、ずいぶん大人向けのファンタジーです。浮浪児のクラバートが、沼の水車小屋で仲間とともに魔法を学んでいくお話ですが、土地や運命、魔法に縛られる人の歓びと哀しみが、美しいドイツの季節の移ろいのなかにじわりと溶け込んでいて、ページをくるたびに心にざわざわと波が立ちます。もの悲しくて透きとおったアンビエントを一枚聴いたような気分。これはやっぱりイイです。


ほぼ自分の記録っぽくて申し訳ないのですが、こういうの、今後もちょくちょくやってみようと思います。