こえーよー

忘れないうちに。


この夏、怪談を観に行きました。
六代目一龍斎貞水による「江島屋怪談」。
一龍斎貞水と聞いてピンとくる方がどれだけいるのかわかりませんが、怪談にかんしては「当代随一」と謳われるお方です。



講談師初の人間国宝、コワイです


まるで怖い話が好きなホラー・マニアみたいですが、怪談を観に行ったのは実ははじめてです。本格的な怪談は、子供の頃に観てしばらく夜眠れなくなった映画「四谷怪談」以来でしょうか。


さて、じっさいに貞水の講談を観た感想はひとこと。うまい! 雰囲気づくりから語り口から小さな仕草にいたるまで、円熟のプロならではのオーラと気合いがびしばし放たれておりました。ひとことで場を変えてしまうスゴみは一朝一夕で身につくもんじゃございません。


ただまあ、怖いだけなら「呪怨」とか「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」とかのほうが100倍はコワいと思います。でも、怪談には、視覚効果重視のホラーにはない恐怖があります。


なんというか、多少、演歌の世界が入ってます。
人ほどコワイものはない、と俗に言いますが、「恨み」「驕り」「妬み」といった情感がものすごく浮き出てきて、それが怖い。時代背景が江戸期というのもあって、デジタルな現代の世の中のそれよりも、ずっと濃くてビターでアナログな種類の情感や人間関係が、みっちり表現されています。演歌が好きなわけじゃないけれど、逆にそれは新鮮に感じました。


子供のころ「水木しげるの妖怪事典」をワクワクしながら読んでたのは、妖怪そのものの姿はもちろん、その妖怪の出自や棲んでいる地方などのバックストーリーが魅力的だったからでした。そう、べつにストレートにビビらされるのが好きなわけじゃなくて、おとなが言うような理屈だけで説明できないものが人生にはたしかに絡んでるよなあ、という感覚を、視覚的にみられるのがおもしろかったんですね。


「江島屋怪談」のストーリーについては調べればいろいろ出てくると思いますが、とりあえずこれから約束はちゃんと守ろう、という気にさせられます。この夏、最高のエンターテインメントは『崖の上のポニョ』じゃなくて「江島屋怪談」でございました。