IT系ラブ・セッション

ちょっと前の話になるんですが、映画を観に行って、忘れられない出来事にぶちあたったことがあります。あまりにも印象的だったので、ここに記録しておきます。


場所は六本木ヒルズ。その映画はコメディで、ずいぶん楽しみにしてたんですが、感想は「?」。微妙でした。笑いどころが曖昧なのと、中途半端にシリアスなせいで、終始半笑いを顔に貼り付けてる感じで、非常にストレスフルでした。


しかし、映画よりストレスフルだったのは、となりの席にいたカップルです。男はシャツのボタン2つも3つも外したちょい不良オヤジふう、彼女は愛されヘアーとモテワンピ。IT社長とその愛人、と勝手に命名しました。この2人がまあ、異常なまでによく笑うんですね。ウルサイ上に、腕を絡めてイチャイチャしている。正直、映画のストーリーなんかより、この2人の馴れ初めのほうがよっぽど気になったりするわけです。いや、べつに映画を観て笑うのはいいんです。腕を絡めるのも自由です。じゃあ問題は何かというと、このカップル、全然どーでもいい場面で、どう考えても笑うとこじゃない場面で必ず爆笑するんです。これがなによりも気になってしょうがない。たぶん周囲のだれもが、このふたりに映画鑑賞のリズムを乱されたはずです。


さて、これだけなら大した話じゃないんですが、ここから話は意外な方向に進みます。


一時間もたったころでしょうか。ぼくは、社長の笑いが「付き合い笑い」であることに気づきました。注意深く聞いていると、男は女が笑い始めてから、ワンテンポ遅れて笑い出している。しかし、付き合い笑いにしては笑い声がでかいので、目立つのは男のほうです。理解不能な行動ですが、見方によっては、まるで彼女の恥を自分が一身に引き受けているようにも思えます。敵を欺くにはまず味方から。バカを守るためにあえて自分が大バカになる……そうです、さすがIT社長(かどうか知らんけど)、じつは画期的LOVE忍術を駆使していたわけです。カッコイイ!


ふだんはきっと冷静沈着なんであろう社長を狂わせた秘書のマル秘テク、および女にゾッコンとはいえプライドをかなぐりすてて滅私奉公的ガハハ笑いをかぶせる社長の蛮勇は、スレスレで評価します。こういう周りのメイワクそうな視線を完全無視して常時フルスロットル、ピリオドの向こう側をめざして突っ走る人、ぼくは決してキライじゃないです。結局、世の中をおもしろくするのは、こういうむきだしのパワーのはずです。だがしかし、それにしてもやっぱ実際問題、自分の身近にこられるとエライ迷惑でした。


●column「ハイブリッド中華」
この映画の帰り、東中野の〈ジャスミン〉という中華料理屋に寄りました。ここは、北京の人がやってる店ですが、決して本場の味だけをウリにしているわけじゃありません。日本人の舌に合わせて発展してきた昔ながらの中華、つまり酢豚や麻婆豆腐なんていうおなじみの料理がメニューにならんでいます。しかも、どれもきちんとおいしい。作ってる人の人柄も透けて見えてくるような、あたたかみのある中華です。本場の味もいいけど、日本的なハイブリッド中華が抜群な店が近くにあるってのは、かなりうれしいです。